COPE Integrity Officerは何を「編集の独立性」と呼んだのか

本稿は、Committee on Publication Ethics(COPE)のFacilitation & Integrity Subcommittee(F&I小委員会)が公表している手続と、Facilitation and Integrity OfficerのIratxe Puebla氏が実際の申立案件において行った対応を、可能な限り一次資料のまま比較するものである。本稿前半では一切評価を行わず、COPEの公開ルールおよび実際の通信記録を時系列で掲載する。引用メールについては、可読性のためメールクライアント固有の表示等を除くほか、本文を変更していない。

なお、Iratxe Puebla氏とのCOPE通信を一次資料として公開することには先例がある。2020年、For Better ScienceはOxford University Pressをめぐる記事で「Dear Iratxe」の節を設け、Puebla氏との通信を公開している。本稿もその例に倣い、COPEが共同策定した「学術出版における透明性とベストプラクティスの原則」、Springer Natureのリサーチインテグリティページが掲げる透明性、Minds and Machines誌編集長Mariarosaria Taddeo氏がデジタル倫理・防衛技術教授として示す職業倫理上の立場、ならびにIratxe Puebla氏自身が掲げる公開査読と査読の透明性という理念を最大限尊重し、当事者間の通信を可能な限り一次資料のまま公開する。

目次
  1. 1. COPEが公表するF&Iの手続
  2. 2. Minds and Machines:回答がなかった案件
  3. 3. 2026年4月10日:編集長から新しい説明
  4. 4. 2026年4月20日:COPE F&Iの回答
  5. 5. Discover Artificial Intelligence:原査読と編集者説明
  6. 6. 「編集の独立性」を理由とするF&Iの不介入
  7. 7. F&I自身が過去に行った追加確認
  8. 8. 2026年:理事会へのエスカレーションを拒否
  9. 9.客観的事実の整理
  10. 10. 考察:COPEの「編集の独立性」とは何か
  11. 11. UTIE Instruments Inc.からCOPEへの非営利目的の助言

1. COPEが公表するF&Iの手続

COPE規則は、F&I小委員会の責務を、COPE加盟ジャーナルまたは出版社の倫理的実務に関する懸念を審査し、解決を促進することと定めている。COPEが公表するF&Iの手続では、加盟組織から手続概要または回答を受領したこと自体は、手続の終了を意味しない。

その後、F&I小委員会は、

  • 申立人およびCOPE加盟組織へ質問、意見または勧告を行う
  • 必要に応じて会員へ追加情報を求める
  • 担当するF&I委員と対話促進・インテグリティ担当者がすべての通信記録を確認する
  • 当事者間の理解と解決を試みる
  • 手続が適切だったか、是正措置または改善が必要かを判断する

という手順が公表されている。さらに、申立人が最終結果に同意しない場合、案件は理事会(Trustee Board)によって再検討されると明記されている。重大な懸念が認定された場合、F&Iは理事会へ制裁措置を勧告できる。

2. Minds and Machines:回答がなかった案件

2026年4月7日:COPEからの最初の確認

Iratxe Puebla氏は、Minds and Machinesへの投稿をめぐる申立てについて、著者へ次のメールを送った。

一次資料(日本語訳):Iratxe Puebla氏から著者

Naito博士

Minds and Machines誌への原稿投稿の取扱いに関する懸念を含む、COPEへのご申立てについてご連絡します。ご申立てでは、査読コメントを含まない不採択通知について、ジャーナルから回答を受け取っていないと記載されていました。現在、ジャーナルまたはSpringer Natureのいずれかから何らかの回答を受け取ったか、ご教示いただけますでしょうか。

ご確認ありがとうございます。

どうぞよろしくお願いいたします。

Iratxe

Iratxe Puebla
対話促進・インテグリティ担当者
出版倫理委員会(COPE)

2026年4月7日:著者からの回答

著者は、査読後の不採択通知を受けたにもかかわらず査読コメントが存在せず、編集者、編集部、Springer Natureのリサーチインテグリティチームへ連絡しても一切回答がなかったと説明した。その時点で受け取っていたアシスタント・エディターからのメールをCOPEへ提出した。

一次資料(日本語訳):Springer Natureアシスタント・エディター

Naito博士

本件について編集者へ連絡しました。進展があり次第ご連絡します。ありがとうございます。

どうぞよろしくお願いいたします。

Christiani
Springer Nature

3. 2026年4月10日:編集長から新しい説明

その後、Minds and Machines誌編集長のMariarosaria Taddeo氏から著者へ回答が届いた。Taddeo氏は、通知は誤りであり、実際には原稿を査読前にデスクリジェクトしていたが、査読後の不採択用メールテンプレートを誤って選択しただけだと説明した。

一次資料(日本語訳):Mariarosaria Taddeo氏から著者

Naito博士

論文の評価に長い時間を要したことをお詫びします。

残念ながら、貴稿の査読プロセスを担当するはずだったエグゼクティブ・エディターに重大な問題がありました。

メールに査読報告が添付されていないのは、論文が査読前に不採択となったためです。編集判断を送信する際、誤った編集判断を選択しました(「査読後不採択」を選択しましたが、「査読前不採択」を選択すべきでした)。そのため、本文に査読者コメントを含む別のメールテンプレートが送信されました。

私は貴稿をデスクリジェクトしました。この手続では、査読報告またはコメントを著者へ共有する必要はありません。

査読プロセスの遅延と、この誤りについてのお詫びを受け入れていただければ幸いです。

よろしくお願いいたします。
Mt

Mariarosaria Taddeo教授
デジタル倫理・防衛技術教授
オックスフォード大学オックスフォード・インターネット研究所

同日、著者はこの回答をCOPEへ転送するだけでなく、この説明と矛盾する記録も同時に提出した。

一次資料(日本語訳):著者からIratxe Puebla氏

Iratxe様

先ほど編集長から直接回答を受け取りました。原稿は実際にはデスクリジェクトされていたものの、査読後用のメールを誤って送信したとの説明でした。

しかし、2026年1月20日に保存したEditorial Managerポータルのスクリーンショットには、2025年12月29日付で「査読者割当済み(Reviewers Assigned)」と表示されています。2026年1月にはSpringer Natureの著者ポータルでも同じ状態を確認しました。つまり編集者は、投稿から5か月後、すでに査読工程へ入っていた原稿について、遡及的にデスクリジェクトだったと主張しています。

同氏のメールとスクリーンショットを添付します。本件へのご対応に感謝します。

どうぞよろしくお願いいたします。

Hiroki Naito

COPEへ提出されたのは、「編集長からようやく回答があった」という情報だけではなかった。同時に著者は、「回答では査読前のデスクリジェクトだったと説明されているが、2026年1月20日に保存したEditorial Managerには、2025年12月29日付で『査読者割当済み(Reviewers Assigned)』と表示されていた」という具体的な反証資料を提出し、関与を求めた。

4. 2026年4月20日:COPE F&Iの回答

Iratxe Puebla氏は次のように回答した。

一次資料(日本語訳):Iratxe Puebla氏から著者

Naito博士

Minds and Machines誌の編集長から受け取った情報をご共有いただき、ありがとうございます。編集者は現在、貴稿の取扱いについて説明を行い、不採択は外部査読を経ず編集者によって処理されたと述べています。

これらの説明により、原稿に適用された編集プロセスについてCOPEへ提出された事項は解消されています。先に述べたとおり、Facilitation and Integrity小委員会は編集判断へ介入できません。外部査読の有無を含め、不採択という編集判断は小委員会の範囲外であるため、小委員会はこれらの事項について審査を進めることができません。

どうぞよろしくお願いいたします。

Iratxe

Iratxe Puebla
対話促進・インテグリティ担当者
出版倫理委員会(COPE)

ここでF&Iは、「編集者は現在、説明を行った」

および、「これらの説明により、COPEへ提出された事項は解消された」とした。

5. Discover Artificial Intelligence:原査読と編集者説明

同じ時期、別のCOPE F&I案件では、Discover Artificial Intelligenceの査読をめぐって、一次記録と編集者側の説明の不一致が問題となっていた。

2025年11月28日の判定通知では、担当編集者Da Tao氏は著者へ次のように通知した。

一次資料(日本語訳):編集判断

「両査読者が不採択を推薦しました。」

しかし、判定通知に記載された査読者2の実際のコメントは、

「本稿は重要な新興問題を扱っていますが、掲載基準を満たすには大幅な修正が必要です。」

であり、その直後には、「主要な懸念は、記述された出来事が架空であるように見えることです」と記載されていた。

さらに添付された詳細査読報告書は、冒頭で次の判定を明示していた。

「総合判定 大幅修正が必要」

また、GPT-5が存在しないという前提を、

「本研究の架空の前提(2025年時点でGPT-5は存在しない)」

と記載し、それが研究の貢献を著しく損なうとしていた。さらに、

「GPT-5(存在しない)を共同コーダーとして使用することは不可能である」

「記述された『反発』とハッシュタグ運動は架空である」

「これは直ちに明確化する必要がある。本稿は推測的なシナリオ分析なのか。そうであるなら、

論文全体でその旨を明確に表示しなければならない」

と述べ、修正項目を「根本的な前提の問題」と分類し、GPT-5は公開されていない、出来事、方法論、データはすべて架空である、という判断を列挙していた。詳細査読報告書の最終判定も、

「判定:再検討の前に大幅な修正が必要」

であった。

したがって実際には、

  • 査読者2は不採択を推薦せず、「大幅な修正が必要」と判定していた。
  • また、論文のテーマとデータが架空であり方法論は不可能であるという誤った指摘は、査読者2自身によって「主要な懸念」「根本的な前提の問題」などと記され、明示的に主要論点として位置付けられていた。

2026年2月6日:著者は査読者2の実際の判定をCOPEへ再提示

一次資料(日本語訳):著者からIratxe Puebla氏・Laura Whitehead氏

Iratxe様

Laura Whitehead氏の回答について、簡潔ですが重大な事実確認を提示します。

同氏は最初の一文で、

「……不採択を推薦した2名の査読者から査読を受領した後」

と述べています。しかし、以前にもご共有したとおり(また11月からSpringerへ報告しているとおり)、査読者2(AI)の実際の記録には、「判定:再検討の前に大幅な修正が必要」と明記されています。2か月を超える調査の後、Springer Natureのリサーチインテグリティ部門が証拠と矛盾する報告をCOPEへ提出したことは、深刻に懸念されます。これはもはや担当編集者の「感覚」の問題ではありません。編集記録の虚偽化が、正式な調査結果として提示されている問題です。

どうぞよろしくお願いいたします。

Hiroki Naito

2026年4月20日:COPEは「不採択判定と査読者の推薦の整合性」の問題を明示的に認識

一次資料(日本語訳):Iratxe Puebla氏からLaura Whitehead氏(著者に写し)

Laura様

Hiroki Naito氏がDiscover Artificial Intelligence誌への投稿の取扱いに関して提起した懸念について、先に情報をご提供いただきありがとうございます。

F&I小委員会の委員が懸念事項を確認し、著者の異議申立ての手続面と、査読報告の一つがAI生成であった可能性に関する懸念への対応について、追加の説明をお願いしたいと考えています。

Naito博士は、不採択という判断と査読者の推薦がどのように整合するのかについても懸念を提起しています。しかし、小委員会は個別の編集判断へ介入しないため、これらの点について審査またはコメントを行いません。

Naito博士は、ジャーナルから、異議申立ては「重要な追加データ」が提出された場合にのみ検討されるとの通知を受け取ったと述べています。また、Springer Natureリサーチインテグリティグループからの通知では、本件の異議申立ては担当編集者が原稿の掲載適格性を中心に確認したとされています。著者の異議申立て/苦情の取扱いに関する次の点について情報をご提供ください。

ジャーナルは、新しいデータがない場合でも、査読の公正性に関する懸念または判断に関する懸念を根拠とする異議申立てを検討しますか。

ジャーナルの方針に記載されているとおり、担当編集者に加えて編集長も異議申立ての評価に関与しましたか。

著者が提起した、①査読におけるAI利用、②査読者2の身元、③未公表原稿の機密性侵害の可能性について、ジャーナルまたはSpringer Natureリサーチインテグリティグループが確認を行ったか、またどのように行ったかをご説明ください。

同誌の査読におけるAI方針は、査読者に対し原稿内容を生成AIツールへアップロードしないよう求める一方、AIを使用した場合は査読報告で開示しなければならないとも示しています。どのような査読上のAI利用が同誌で許容されるのか、ご説明ください。

Naito博士の懸念に対応するためのご協力に感謝します。ご回答をお待ちしています。

どうぞよろしくお願いいたします。

Iratxe Puebla

対話促進・インテグリティ担当者

出版倫理委員会(COPE)

このメールでは、F&I自身が「不採択という判断」と「査読者の推薦」がどのように整合するのかという懸念が提出されていることを明示的に認識している。その一方で、その点については「審査またはコメントを行わない」としている。

6. 「編集の独立性」を理由とするF&Iの不介入

これらの案件についてF&Iは、編集判断そのものには「編集の独立性」を理由として介入できないという立場を示した。

一次資料(日本語訳):2026年1月21日 Iratxe Puebla氏から著者

Naito博士

Discover Artificial Intelligence誌から受け取った通信をご共有いただき、ありがとうございます。編集者は原稿の学術的内容と不採択理由の一部についてコメントしていますが、COPEは編集判断へコメントできないため、これらの点は対話促進・インテグリティ小委員会の範囲外です。

一人の査読者がAI生成の査読を提出したとの懸念については、ジャーナルが確認中であると示しているため、現段階ではCOPEはジャーナルおよびSpringer Natureによる確認結果を待つ必要があります。

どうぞよろしくお願いいたします。

Iratxe

Iratxe Puebla

対話促進・インテグリティ担当者

出版倫理委員会(COPE)

Springer Nature自身が公開する「編集の独立性」の説明は、編集判断を商業上の利害から独立させ、営業部門または経営側が編集判断へ介入しないことを中心とする。COPE自身のガイドラインでも、「編集の独立性」とは、投稿物の質と適切な査読に基づいて編集判断を行い、政治的・財務的・個人的影響から独立させる原則として説明されている。すなわち「編集の独立性」は、査読報告書の内容が客観的事実と一致しているかを検証しないことを正当化する原則ではない。

一方、本稿で掲載している記録上の争点には、

  • 査読者が不採択を推薦したか
  • 査読者自身が何を「主要な懸念」と記載したか
  • 論文のテーマやデータは架空か
  • 論文の方法論は不可能か
  • 原稿がデスクリジェクトだったとする説明と、「査読者割当済み(Reviewers Assigned)」というシステム記録が矛盾していないか

という、編集上の価値判断とは別に、客観的事実として確認可能な事項が多く含まれていた。

なお、両案件の性質は同一ではない。Discover Artificial Intelligence案件では、F&I小委員会自身がeditorial independenceの適用範囲を拡大した。Minds and Machines案件では、Editorial Managerの記録という具体的な反証が既に提示されていたにもかかわらず、Puebla氏は編集長からのその前の説明のみをもって「対応済み」と扱った。

7. F&I自身が過去に行った追加確認

F&Iが加盟誌から何らかの回答を受け取った時点で案件を終了するわけではないことは、Puebla氏自身による過去の案件処理からも確認できる。2020年、International Journal of Infectious Diseasesに掲載されたMakiらの抄録についてMarc Edwards氏が懸念を提起した案件で、Puebla氏はジャーナル側の回答を受領した後も、追加確認が不十分であるとしてさらなる対応を要求した。

2020年8月26日、Puebla氏は、ジャーナルが必要な追加対応を行わなければ、

「本件をCOPE理事会へ付託せざるを得ません」

と通知した。

COPE自身の最終報告によれば、その後F&Iは実際に案件を理事会へ付託し、3名の理事が案件を審査した。その結果、正式な制裁は必要ないと判断されたものの、ジャーナルへ追加の意見が伝えられた。

つまり、この案件では、

  1. 加盟組織が回答した。
  2. F&Iが回答内容を確認した。
  3. 回答は不十分だと判断した。
  4. 追加対応を要求した。
  5. 実際に理事会へエスカレーションした。

8. 2026年:理事会へのエスカレーションを拒否

ところが2026年8月6日、Discover AIのF&I案件で、当社がNancy Chescheir氏およびCOPE理事による上位審査を要求したところ、F&Iは次のように回答した。

一次資料(日本語訳):2026年8月6日のF&I回答

「Nancy Chescheir氏およびCOPE理事による本件の審査を求めるご要望はお断りします。COPEの標準手続では、小委員会がすでに審査した案件を再検討またはエスカレーションすることはありません。」

すなわち、

「F&I小委員会がすでに審査した案件だから、理事会へはエスカレーションしない」

と説明した。

しかし、COPEが現在公開しているF&Iの手続には、申立人がF&Iの最終結果に同意しない場合、

「懸念事項または問題は理事会によって審査される」

と明記されている。

さらに前述の2020年の案件では、Puebla氏本人が担当したF&I案件が、F&Iによる審査後に実際に理事会へ付託され、3名の理事によって審査されている。

9.客観的事実の整理

ここまでに掲載した一次資料を整理すると、少なくとも以下の事実が確認できる。Minds and Machines案件では、F&Iは当初、ジャーナルまたはSpringer Natureから回答を受け取ったかを著者へ確認した。著者はその後、編集長から回答を受け取ったが、その回答がEditorial Managerの実際の記録と矛盾すると具体的資料を付けて報告した。それに対しF&Iは、編集長が説明を提供したため、COPEへ提出された事項はすでに解消されたとし、懸念への関与を終了した。

Discover Artificial Intelligence案件では、査読者が不採択を推薦したか、査読者自身が何を「主要な懸念」と記載したか、実際にはGPT-5が存在するため論文のテーマやデータは架空ではなく、論文の方法論も不可能ではないことがCOPEへ提出された。しかしCOPEは、編集判断には関与できないため、関与を手続面に限定すると明言した。さらに2026年4月20日、F&IはSpringer Natureへの照会メールで、著者が「不採択判定」と「査読者の推薦」がどう整合するのかという懸念を提起していることを明記したうえで、その点は「小委員会では審査も論評も行わない」とした。

両案件において、F&IおよびIratxe Puebla氏は、説明が既存の記録と矛盾するという、具体的な反証が提示された後も、その説明があったことのみをもって、その部分への関与は編集独立原則によって踏み込めないとした

10. 考察:COPEの「編集の独立性」とは何か

「編集の独立性」の本来の正確な意味は、商業部門や経営側が編集上の判断へ不当に介入しないことを保証するための原則である。これは、組織内の異なる部門間で権限を分離するための内部統治上の原則である。

この原則は、決して、「編集者や出版社が、いかなる客観的な事実誤認や、査読者本人の記録との直接的な矛盾を含む判断を下しても、その内容の真偽については、COPEのような外部機関が一切検証してはならない」ということを意味するものでは、断じてない。

むしろ、Springer Nature自身が定める編集者行動規範(Editors' Code)は、査読の目的を「研究の妥当性を正確に評価すること」と定め、そのプロセスが「結論が結果によって正当に裏付けられているか」を含め、建設的かつ批判的な評価を提供すべきであると明確に規定している。

この問題を単に「Iratxe Puebla氏がCOPEの基礎的ルールを理解していなかった」と説明することはできない。Iratxe Puebla氏は研究者でもあり(ただし、筆頭著者を務めた2003年の論文は、画像のスプライシングにより2025年に撤回されている)、その後も長年にわたり学術出版・出版倫理の分野で活動し、現在はCOPEの対話促進・インテグリティ担当者を務めている。また過去には自ら、F&Iで扱った案件について理事会へのエスカレーションを通知し、実際にその手続を進めている。

つまりIratxe Puebla氏は、本来は限定的で特定の目的を持つ「編集の独立性」という原則を極めて都合よく恣意的に拡大し、あたかも出版社や編集者による客観的な虚偽を外部の検証から完全に保護する免罪符であるかのように、意図的に誤用している。研究論文は撤回され、出版倫理担当者としては自らが運用するCOPEの公開手続の基準と異なる処理を行う。ルールを守らないという点だけは長年一貫している。

Iratxe Puebla氏やCOPEが本事例のように、

一次資料と直接矛盾する回答であっても、回答さえ存在すればよいと評価する

という基準を採用しているのであれば、その基準を現在のように非公開のままにするべきではない。そうではないのであれば、なぜCOPEの追加確認、解決、理事会による再検討の手続が適用されなかったのかについて説明が必要であるが、現時点でIratxe Puebla氏とCOPEはこの件について沈黙を続けている。

11. UTIE Instruments Inc.からCOPEへの非営利目的の助言

「自助グループ」から外部的権威へ

2014年、COPE元議長のElizabeth Wager氏は、COPEの主な機能を編集者と出版社への助言・ガイダンスの提供と説明し、COPEを編集者の「自助グループ」と表現した上で、COPEは取締機関ではなく、不正行為の疑いについて自ら調査する組織でもないと明記している。しかし現在、COPE加盟は、出版社やジャーナルの信頼性を示す外部的指標として、業界内で広く利用されている。Springer Natureも、COPE加盟の有無を、正規の出版物と低品質な出版物を区別する指標の一つとして説明している。COPE Regulationsは出版社を会費制の会員として規定しており、Springer NatureはCOPEの会費制加盟出版社である。同社Research Integrity DirectorのChris Graf氏は、COPEの初期共同議長を務めた人物であり、同社は現在もCOPEと緊密に協働していると公表している。

COPEに申立てが行われる案件の一方の当事者は、COPEに会費を払う会員であり、しばしば、その会員組織の担当者自身が、COPEの運営に深く関わってきた人物である。この利益相反関係のもとでは、加盟出版社が申立ての対象となる案件において、担当者が、会員からの虚偽報告を字面通り受理するか、事実に照らして関与するかは、COPEの意義そのものを左右する分岐点になる。

本稿で確認した二つの案件では、後者ではなく前者が選ばれた。Iratxe Puebla氏は、Minds and Machines案件、Discover Artificial Intelligence案件のいずれにおいても、加盟出版社側の説明が、著者から提出された一次記録と直接矛盾していたにもかかわらず、その説明が存在すること自体をもって、COPEへ提出された懸念は解消されたと評価した。一方、2020年、Springer Natureが当事者ではない別案件では、Puebla氏自身が、加盟誌からの回答を受領した後も対応が不十分であるとしてさらなる説明を求め、最終的にTrustee Boardへ案件を付託している。同一の担当者が、同一の手続のもとで、これほど異なる厳格さを示した理由について、COPEはこれまで説明していない。

さらにSpringer Nature側では、同社Research Integrity Directorで元COPE共同議長のChris Graf氏が、事実と異なるEditor-in-Chief関与説を含むCOPE報告書を、査読プロセスが適切だったとする根拠として利用し、著者からの追加調査要求を拒否した。詳細は別稿「Springer Nature リサーチインテグリティチームによる架空調査は問題か」で検証している。

COPEが公表するF&Iの手続は、追加情報の取得、当事者間の理解の形成、是正措置の検討、Trustee Boardへのエスカレーションまでを含む、体系立った制度として設計されている。この手続がSpringer Natureが当事者となる案件でのみ適用されなかった事実は、COPEと利益相反関係にある、商業的加盟企業を利する形での、選択的な運用として理解する必要がある。

「編集の独立性」は、本来、商業部門や経営側が編集判断へ介入することを防ぐための原則である。本件では、この原則が、出版社や編集者による説明を、外部や著者による事実検証そのものから遮断するための根拠として、Iratxe Puebla氏によって転用された。不正研究の筆頭著者でもあるIratxe Puebla氏だが、現在は出版倫理を審査する重要な立場にある。本稿で確認した二つの案件において、COPE自身の公開手続にも反する関与を一担当者として行ったことをどう是正するかは、COPEが加盟出版社の不正を洗浄するツールにすぎないと指摘されないために重要なポイントになるだろう。